転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


113 意地悪しちゃいけないんだよ



 初めてパンケーキを作った日から5日、僕は未だに森に行けてなかったりする。

 その間、お姉ちゃんたちやスティナちゃんに頼まれてお母さんと一緒にパンケーキ作りをしてたもんだからベーキングパウダーもどきの丁度いい量も解ってきて、今では前世の記憶にあるお家で焼くホットケーキより美味しく焼けるくらい、僕はパンケーキを作るのが上手くなってるんだよね。

 それとね、みんなで食べるもんだから上にかける生クリームが少なくなってきて、何か他の食べ方は無いの? ってお母さんに聞かれたから蜂蜜をかけたり、乾燥フルーツを生地に混ぜても美味しいんだよって教えてあげたら、それも作るようになっちゃった。

 こうなると、生クリームという残りの量に制限があった材料を必要としなくなったもんだから、パンケーキを作るのに何の制限もなくなっちゃったんだよね。

 何せパンケーキに必要なもう一つの材料であるベーキングパウダーモドキは元々お掃除用の粉だから大きめの袋に入ったのしか売ってなかったのに、パンケーキに使うのはほんのちょびっとなんだもん。

 だから当然、生クリームって言う材料の制限がなくなっちゃったから、小麦粉さえあればパンケーキはいっくらでも焼く事ができるよね。

 で、そんな状況だからってお母さんが一緒に食べない? なんて声をかけたもんだから、うちだけじゃなく近所の人たちまで食べに来るようになっちゃって、今では村中でうちのパンケーキが大ブームになっちゃってるんだ。

 おまけにレーア姉ちゃんが昔作った蒸しパンの事まで言い出したおかげで、それを作ってるうちに僕の一般職にある料理が1から6に上がっちゃってたりする。

 ただお母さんのステータスをみても一般職の欄に料理が付いていない所を見ると、案外これも加護持ちってやつが関係してるのかも。


 多分この手の一般職って習得するのが難しいんじゃないかな? そうじゃないと、毎日料理してるお母さんたちはみんな料理の一般職が付いてるはずだもん。それなのに付いて無いって事は、やっぱり習得するのは意外と大変なんだって思うんだよね。

 なのにレベル上限が30を超えてて加護持ち状態になってる僕は雲のお菓子を作ってるだけで簡単に料理の一般職が付いたんだから、多分そうなんだと思うんだ。

 でもあれってジョブだけじゃなくて、一般職にも関係してるんだなぁ。


 とまぁそんな訳で、料理6レベルを持ってる僕が焼いたものがお母さんどころか村中で一番美味しいからって、朝のお手伝い以外は暇してる僕はすっかり村のパンケーキ屋さんみたいになってるんだよね。

 もしかして僕、このままお菓子屋さんにされちゃうのかも。

 そんな事を真剣に悩み始めたころ。

「ルディーン。明日なら俺とテオドルが空いてるから、森に行けるぞ」

 ディック兄ちゃんが、そう言って僕を森に誘ってくれたんだ。

「えっ、ホントに連れてってくれるの!? やったぁ!」

 お兄ちゃんたちが言うには、いつも一緒に行ってる人たちが畑仕事だったり、近くの村への買出しの当番だったりする日を調整して開けてくれたらしい。

「ルディーンにはパンケーキをいつも焼いてもらってるからって、俺が組んでるパーティーとテオドルが組んでるパーティーの女性メンバーたちがそうしようって言い出したんだ。後でお礼を言っとけよ」

 なんと、パンケーキのおかげで、僕は森に行ける事になったみたいなんだよね。

 そっか、お菓子屋さんみたいになってたのも無駄じゃなかったんだ。

「ただ、うちのメンバーの一人は俺たちが森に行く明日、牛乳が取れる村まで生クリームとか言う奴を買いに走らされるらしいんだよなぁ」

 そんな事を思ってたら、テオドル兄ちゃんがそんな事を言い出したんだよね。

 どうやら、パーティーメンバーの1人が、同じパーティーの女の人に生クリームが乗ったパンケーキが食べたいから買ってきてって頼まれたんだって。

「何で俺がって愚痴を言ってたから、不満に思ってる人もいるんだって事も覚えておくといいよ」

「わざわざ買いに行ってって言われちゃったの? それって大変だし、無理やりなんてダメだよ! テオドル兄ちゃんのパーティーメンバーのお姉ちゃんたちは毎日食べに来るし、多分今日も来るだろうから、そんな意地悪な事、しちゃダメだよって言っとくね」 

 自分が食べる分なんだから、ちゃんと自分で行かないとダメだよね。

 だから僕は、今日お姉さんたちが来たら怒んなきゃって、ふんすと気合を入れたんだ。

「いやいやいや、ちょっと待て。そんな意味で言ったわけじゃなくてだなぁ……。とにかく、だ。そんな事、言っちゃダメだぞ。彼女たちのおかげで森に行けるんだから」

 ところが、そんな僕を見てテオドル兄ちゃんは大慌て。

 そうだ、ちゃんと言ってやるんだぞ! って応援するディック兄ちゃんの口を手で塞ぎながら、僕にやめろって言うんだ。

「え〜、なんで? テオドル兄ちゃんのお友達が困ってるんだよね? なら僕、ちゃんと言うよ。それにそんな意地悪をするお姉ちゃんたちには僕、もうパンケーキ、焼いてあげないんだ!」

「ちょっ!? ルディーン、それは……」

「そうだよなぁ。意地悪する子になんて、パンケーキを焼いてやる必要は無いよな」

「うん! ディック兄ちゃんもそう思うよね」

 ディック兄ちゃんも僕の意見に賛成してくれたから、僕はテオドル兄ちゃんのお友達のお姉さんたちにはもうパンケーキは絶対に焼いてあげないぞって思ったんだ。

「待て待て待て、ルディーン。違うんだって! それとディック兄ぃ、ルディーンは素直なんだからたきつけるなよ」

「いやぁ、悪い悪い。あんまりルディーンが可愛かったもんでな」

 ところがテオドル兄ちゃんは、僕が折角決意した事を止めようとするんだ。

 その上ディック兄ちゃんにまで怒ってるし。悪いのはテオドル兄ちゃんの女のお友達のはずなのに、なんで? そう思って聞いてみたら、

「あ〜、別に無理やり買いに行かされたってわけでもなくてだなぁ。本人も口ではそう言ってるけど、ある意味喜んでると言うか……」

「なんで? さっき愚痴を言ってたって、テオドル兄ちゃんも言ってたじゃないか」

 行きたくないからテオドル兄ちゃんに言ったんだよね? なのに喜んでるなんて、そんなの変だよ。

「まぁ、その辺りはルディーンにはまだ解らないだろうなぁ。色々あるんだよ、色々な」

 言われてる事が解んなくって困ってた僕に、ディック兄ちゃんがそんな事言ってきたんだ。

 まだ解んないって事は、大きくなったら解るって事? それとも大きくなったらいやな事をさせられても喜んじゃうって事があるってことなのかなぁ?

 ん、待って。もしかして!

「僕、解っちゃった!」

「おっ、ルディーン。解ったのか? 凄いなぁ」

「うん。そのテオドル兄ちゃんのお友達はいやだって言ってるだけで、本当は買いに行きたかったんだね」

 僕が解ったって言ったら、ディック兄ちゃんが凄いなって褒めてくれたんだ。

 でも、こんなの大きくならなくても簡単に解る事だもん。凄いなんて言われたら照れちゃうなぁ。

「で、何が解ったんだい?」

「あのねぇ、そのテオドル兄ちゃんのお友達も本当は生クリームの乗ったパンケーキが食べたかったんでしょ? でも、大きな男の人なのに甘いものの為に自分で買いに行くのが恥ずかしかったから、本当は買いに行けるのが嬉しいのに、いやだなんて言ったんだよね」

 僕は胸を張りながら、ディック兄ちゃんに解った事を話してあげたんだ。

 小さい内はみんな甘いお菓子を喜んで食べるのに、何でか男の人は大きくなると甘い物を食べなくなるんだよね。だからテオドル兄ちゃんのお友達も、きっと自分も食べたいって言うのが恥ずかしかったんじゃないかなぁ?

 そしたらそれを聞いたディック兄ちゃんは、にんまりと変な笑い方をしてから、

「ルディーンは可愛いなぁ」

 って言いながら、僕の頭をガシガシと撫でたんだ。

 あれ? 違ったのかな?

 その様子がちょっと変だったから、僕、何か間違ったのかなぁ? なんて思ったんだけど、

「そう、そうだよルディーン。そいつは男の癖に甘い物が大好きでな。だから本当は買いに行けって言われてうれしかったんだよ。うんうん、ルディーンは本当に賢いなぁ」

 テオドル兄ちゃんがそんな事を言ったので一安心。

 そうだよね。男の人だって、甘い物が好きな人がいてもおかしく無いもん。

「だからな、ルディーン。今度そいつが仲間の女の子と一緒にパンケーキを食べに来たら、持ってきた生クリームをタップリ乗っけてやってくれよ」

「うん! ちゃんといっぱい乗っけてあげるね」

 僕は何故かちょっと汗をかいているテオドル兄ちゃんに、そう言って笑ったんだ。




 因みにテオドルの現在の年齢は16歳。この年齢の男女ですから、この会話の本当の意味はお察しですが、8歳児のルディーンにそれを解れと言う方が無理ですよね。


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